1: 774RR 2006/01/22(日) 16:39:55 ID:UxeB2MaP
カブ以外で

2: 774RR 2006/01/22(日) 16:41:57 ID:1rHqqpOw
GL1800かハレFLHでFA

終了

5: 774RR 2006/01/22(日) 16:47:01 ID:LlleYzMM
パニアケース付きの黒鳥

6: 774RR 2006/01/22(日) 16:48:11 ID:j33DDdIm
ハーレーチョビットソン

10: 774RR 2006/01/25(水) 19:25:47 ID:z0rist/7
RC211V

13: 774RR 2006/01/27(金) 17:46:36 ID:0oBrkc0Q
土曜AM3:00 男はガレージで野獣の唸り声に似た低く獰猛なアイドリングを
奏でる愛機ZX-11の前にいた。
漆黒のレーシングスーツを見に纏った彼はサザエの知る「三河屋のサブ」では無い。
「湾岸のSABU」 彼は走り屋仲間から畏怖の念を込めそう呼ばれている。

SABUは暖機を終えた愛機に跨りヘルメットの中で微笑んだ。
(サザエの奴・・・今日は激しかったな。まるでコイツの様に官能的だったぜ)

黒き猛獣はSABUを乗せ狂った雄たけびと共に闇の彼方へと吸い込まれていった・・・

14: 774RR 2006/01/27(金) 17:49:23 ID:rO5+XaBz
>>13
あついなぁw

18: 774RR 2006/01/27(金) 21:17:38 ID:0oBrkc0Q
夜の首都高を走るサブ。
昼間は決して見せる事の無い過激なライディングに追随できる者はいない。

スピードと言う名の快楽を貪る彼の脳裏にサザエの淫らな痴態がよぎる。  
(サザエは何故、あんなウダツの上がらない婿養子の妻になったのか?)
平凡を絵に描いたような男・・・オレとは住む世界の違う男・・・・

その時、愛機ZXの爆音とは異なるエグゾーストノートを耳にしてサブは我に返った。
「!!」サブはミラーを覗くが敵機の姿は無い。
(まさか・・・!!)
その刹那、スリップストリームから飛び出た真紅の機体が一気にサブの前に出る。
紅いハヤブサを駆るのは同じく真紅のライダースーツに身を纏う男。
背中に「魔 棲 雄」の縫い取りが見てとれた。

「魔棲雄・・・まさか、マスオだとっ!!?」





22: 774RR 2006/01/27(金) 22:40:55 ID:0oBrkc0Q
黒いカワサキが背後でもがいているのがミラー越しに見てとれる。

彼は気づいていた。
爽やかな勤労青年の仮面を被った彼が、我が妻と情事を重ねている事を。
だが怒りは無い。むしろ感謝の念すらマスオは感じている。

over300、そこは死が手招きする悪魔の領域。
「魔に棲む男」マスオはかつてそう呼ばれていた。
だが、気づけば彼は平凡で退屈な世界の住人と化していたのだ。
それがサブによって戦士のプライドと野獣の闘争本能を呼び覚まされた。
「ありがとよ、坊や」
最速の猛禽類の名を冠したマスオの愛機がフロントを持ち上げ更に加速する。
まるで大空に羽ばたくかのように・・・(END)





238: 774RR 2006/02/03(金) 14:35:02 ID:iuTFbEqw
木曜日の午後と日曜日の朝がカツオは待ち遠しくてしょうがなかった。
木曜日は三河屋が休みだし、日曜日は店が開く10時まではちょっとの時間ができる。
店の脇の細長いスペースにはいつもカブが鍵つきで置きっぱなしになっているので店に人が居ない時間なら近所でカブを乗り回しても多分気付かれないハズだ。日曜日に寝坊せずに起き出して外へ出て行くカツオを見て姉のサザエは
「あらあらどうしたのかしら」
と驚いているが、そんなのは知ったことではない。

そして木曜日の今日、中島を初めて誘ってみた。
「磯野~、やっぱりやめようよ。」と弱気な中島はしり込みしてるが、こんな面白い乗り物を一人で乗るのはもったいない。中島だって一度乗ったら絶対にやみつきになる筈だ。
店の脇に入り込んでバックでカブを車道に押し出す。まだぶつぶつ文句を言っている中島に手伝わせて50mほど押す。このくらい離れれば店に人が居ても気付かれないだろうというところでエンジンをかける。ブルブルブルと鳴るエンジンは大人から見れば騒々しいだけの非力なエンジンだがカツオ達から見れば強力な”モンスター”だ。なにしろ比較対称が自転車しかないのだから。
カツオは慣れたフリをしてカブにまたがり中島に「後ろに乗れよ」と言ったが、中島は「やっぱりまずいよ~」と渋っている。中島は怒られることよりカツオの運転に躊躇したのだが、カツオは気付かずに先に空き地まで行ってしまった。

239: 774RR 2006/02/03(金) 14:35:38 ID:iuTFbEqw
中島がちょと遅れて1ブロック離れた空き地にたどり着くとカツオはすでに何周か走り終わったあとで中島のほうにやってきた。「じゃぁ今度は中島が運転してみろよ。面白いぞ。」カツオが半ば強制的に中島をカブに座らせると、中島は渋々といった感じでカブに座った。これはブレーキ、これはアクセルで、と簡単に教わったあと、中島はカツオを置いてソロソロとバイクを進めてみる。
「なんかあったらすぐにブレーキだぞ~」とカツオがさけぶ。
意外と簡単に動き出したカブは、とても素直に中島の指示に従って前へ進んでいく。「意外と簡単に運転できるんだな」と思った中島がアクセルの開度をさらに増した瞬間、カブがグっと力を増し、いきなり前輪が持ち上がった。
「中島、アクセルを戻せ!」とカツオが後ろで叫んだが、腕が伸びきってとてもアクセルを戻す余裕なんかない。一瞬棒立ちになったカブはゆっくりと左後ろ、中島のほうへ倒れてきた。中島は必死で体を避けると、左腕でバイクを引っ張って少しでもカブのダメージを減らそうとした。ガシャンと倒れたバイクは左側が泥だらけになってしまったが、ミラーもカウルも破損だけは免れた。

慌てて走り寄ってきたカツオは「不器用だなぁ中島は。ま、壊れていないから黙って返しときゃバレないって。」真っ青にった中島に対してカツオはふてぶてしく言い放ったが、要するにカツオは何度も一人で倒してなれているだけだ。はじめて乗ったときは驚いてブレーキの掛け方をド忘れし草むらに突っ込むという中島以上に情けないことをしている。
カツオの言葉に安心した中島は、済まなそうな顔をしたままでカツオにも意外な一言を言った。
「なぁ磯野、もう一回乗ってみていいか?」
ニコっと笑ってカツオは答える。「当たり前さ、中島。そのためにお前を連れてきたんだから。」

549: 774RR 2006/02/18(土) 20:28:52 ID:JzoI7RIl
カツオと中島が何回かカブで遊んだ頃だった。
一回くらいならばれないだろうと考え、一回がばれなければ2回ばれないと思い、
2回ばれなければ永遠にばれないだろうと思っていた。
中学生の二人大人のつもりだったがまだまだ子供だった。

二人でカブを持ち出して5回目くらいの頃だったろうか。
燃料の残りが少なかったり、店の裏に店主の車が置いたままで店内に人影が
あったりと、休みの日もなかなか遊ぶ機会に恵まれず、学校が行事の準備
で午前中のみになったその日は久々にカブで遊ぶチャンスだった。
その頃は中島もバイクに慣れ、今だったらダートトライアルとでも言うのか、
空き地に置いてある土管や石ころを目印にしてタイムトライアルごっこをし
ていた。後になって考えるに貧弱なミッションやショックに随分無理をさせ
ていたものだが、彼らはこの新しい玩具の限界を探すのことに没頭していた。

二人がバイクの横に座り込んで世間話をしているときだった。道路から杭を
乗り越えて二人の方へ向かってくる人影が見えた。逃げなければと思いカツ
オがカブの前、中島は後ろに乗ろうとする。一方、人影は二人に向かって
「コラ、逃げても駄目だぞ」と叫びつつこちらへ向かってくる。
その声を聞いたカツオは逃げる動作を途中で止めてしまった。人影は早足と
いうほどでもなく、普段の歩き方よりちょっと急ぐくらいの速度で二人の方へ
向かってくる。こちらへ向かってくる人影から目をそらし下を向いたままカツ
オは動かない。
「どうしたんだよ磯野」と中島は急かす。しかしそのままの体勢でカツオは答えた。
「逃げても駄目だよ中島。三河屋のサブさんに見付かっちゃったから顔もバレ
てるんだ。」

555: 774RR 2006/02/18(土) 23:47:37 ID:JzoI7RIl
彼らを見つけたのはまさにカブの持ち主の三河屋のサブだった。
二人は今更になって自分達のやっていたことが”窃盗”だったということに
気付く。(警察や親には連絡されちゃうんだろうか。学校はどうなるのだろう)と
さまざまなことが不安になってくる。親にはまだしも、カツオは偉そうに
説教を垂れる姉のことを想像して激しく苛ついた。
サブは二人の前に来ると言った。
「おい、君達のやっていることは窃盗なんだぞ。」
それだけ言ったあと、言葉を選ぶサブと二人の間に一瞬の間が空いた。
見上げるカツオの目に映るサブは日常家で母や姉に丁寧に接客する若者ではなく偉
そうに分別を垂れる大人の顔であり、普段着の服装はひざまでのズボンに迷彩柄のタ
ンクトップのシャツを着てサンダル履き。手には細長い紙袋を持っている。きっと
パチンコでとった景品のタバコだろう。タンクトップから伸びた腕は太く筋肉
の筋が盛り上がり、上半身はカツオの想像より遥かに逞しい肉体だった。外を歩い
てきた割りに何故かほのかに石鹸の香りが漂っている。

言い訳をしようとしたカツオと中島は言葉が見付からず、とりあえず次の
言葉をつ。どうせこれから長い説教をされて、補導され、親と学校の先生に
同じ事を繰り返し何時間も説教をされるんだろうと覚悟した。さっきまで
オートバイを乗り回して輝いていた世界が一気に色褪せて感じる。
サブはバイクと二人の顔を交互に見た後に言った。
「なぁ君達、開拓時代の西部じゃ”馬泥棒は縛り首”って言って、殺されちゃってたんだぜ。」と言い始めた。
「いいかい?オートバイを趣味で楽しんでる人間は、それだけ自分のバイクに愛着を持つんだ。
まぁ、目立ちたいだけでバイクを転がす馬鹿も居るけどな。」
妙な例え話から始まったサブの言葉に二人はなんとなく違和感を感じる。大人の説教な
んて大抵「やっちゃいけないことを並べて文句を言い続けるだけ」だ。
なんかこの人の説教は他の人と違って方向がヘンじゃないか?

623: 774RR 2006/02/23(木) 00:44:12 ID:eJD1Iczi
「君達はなんでこんなトコで遊んでるんだい?」サブが問い掛けた。
サブは数日前、定休日に突然配達を頼んできた得意先に酒を届けるために店に来た
ところ配達用のバイクが無くなっているのに気付いた。配達を急いでいたので一旦得意先
に行ったあと店にもどり警察に連絡を取ろうとしたところバイクが元の位置に戻っていた
ので近所の子供がバイクをいじって近所を遊んでいるだろうと考えて空き地をのぞいた
ところ、まさにカツオと中島の姿を発見したのだ。

「最初は鍵が付いていたから試しに動かしただけだったんだ。」答えたのはカツオだった。
「でも、乗ってみたら面白くて、この空き地で練習をしてたんだ。」
戻してあったバイクはこの空き地で遊んだ割には汚れておらず、不整地を走った後に
軽く洗ったらしかった。純粋に、バイクという乗り方に興味を持っているようだ。
サブはカツオと中島が見付ける前からずっと、二人が交互に乗ってコース取りを相談してい
るのを遠くから見ていた。最初はぶん殴ってやるつもりだったのだが、バイクを必死に乗り
こなそうと考えながら走っている彼らを見ているうちになんとなく気が変わってきた。彼ら
の興奮して運転する顔に、サブが免許を取る前に感じていた、バイクに対するはち切れそう
な好奇心を思い出してきていた。
(単に玩具を取り上げるより、ちゃんと乗り方を教えてみるほうが面白いかもしれない。)
それはサブの単なる思いつきだった。

624: 774RR 2006/02/23(木) 00:45:49 ID:eJD1Iczi
「でも、他人のものを勝手に使って遊ぶのはよくないってのはわかるだろう。」サブはそう
言うと「ほれ頭を出せ」と言ってカツオと中島の頭にゴツンと拳骨を入れた。二人は頭蓋骨
がゆがんだのを感じるほどに拳の関節が食い込んだ。
「まぁ、オートバイを好きなのはわかった。でも、オートバイの練習をするならそんな格好
でバイクに乗るもんじゃぁないな。」サブは言いながら二人の格好を見た。二人ともジーパン
に半そでのシャツという格好で、当然乗る時はノーヘルだ。「バイクに乗るなら当然ヘルメッ
トをかぶらなきゃいけないし、せめて厚手のズボンと長袖のシャツくらいは着なきゃ駄目だ。
公道を走り回ったりしていなかったのはマシだけどな。」
更にサブは続ける。
「いいか、乗りたいなら、ちゃんと手順を踏んで借りに来い。そうすれば乗せてやる。ただし服装
はもうちょっとマシな格好をしてくること。家族には説明して了解を得ること。店との往復は
君達が自分で押して運ぶこと。それから、乗る時は、僕がヒマで見てあげらる時だけだ。」
サブは意外な条件をつけてきた。警察に連れていくどころか、条件付きでバイクに乗せてやる
と言ってくれているのだ。
こんな美味しい話は無い。「よろしくお願いします!」と力強くカツオが言った。中島も「僕も
乗せて下さい」と続けく。
「よし、じゃぁ今日は一旦終りにしよう。乗りたいなら来週の木曜日は夕方に店に居るようにす
るから、店のほうに来なさい。」言いながらサブはもと来た道のほうに向かいはじめた。

625: 774RR 2006/02/23(木) 00:47:34 ID:eJD1Iczi
「もし朴達が公道を走っていたらどうしていたの?」カツオがおそるおそるサブに聞いた。
サブは淡々と答えた。「君達だと気付かないフリして殴り倒したあと親のところに怒鳴り込んで警察
に連絡させただろうね。」
先ほどの拳骨の痛さとサブの筋肉質のカラダつきから決してその言葉は冗談ではないのだろう。カ
ツオは三河屋から空き地までの間に見付からなかった幸運にコッソリと感謝した。

「いいか、ちゃんとバイクを店まで押してこいよ!」
サブは大声で叫んで店のほうに戻っていった。

「空き地で見付かってよかったなぁ、中島」「びっくりしたなぁ磯野」
二人は心底ホっとした顔をして会話した。
「来週も乗せてもらいに行こうな。」というカツオの誘いに「そうだなぁ」と中島も満更でもない
顔をして答えた。

690: 774RR 2006/02/27(月) 22:41:19 ID:D0UrcrPH
次の木曜日は尚更待ち遠しい日となった。なにしろ堂々とオートバイに乗ることが
できるのだから。
サブに見付かった翌日、カツオと中島は連れ立って三河屋にサブをたずねた。
面倒臭そうにするカツオを中島が半ば無理やりにつれていったようなものだったが、
改めて無断でバイクで遊んだことを謝罪し、バイクに乗せてもらうように頼んだのだ。
謝罪に訪れたとき、サブはビールのビンを軽トラに運んでいるところだった。カツオと
中島が手伝おうとすると笑いながら「余計な気を使うな」といって、店の奥の主人に
タバコを喫ってくると大声でことわったあと、カブの置いてある小道まで来て休憩の
体勢に入った。ハイライトを取り出して咥えるサブに向かって中島が話し出した。
「バイクを無断で乗り回してすいませんでした。」
サブはタバコを咥えたまま黙って中島を見つめる。ビクビクしながら中島は続けて頼んだ。
「それから、改めてお願いします。バイクに乗らせてください。」
サブは咥えたままのハイライトを、火をつけぬままに手に戻して言った。

「そうだよなぁ。やりたいことをやるためには順番を守らないと駄目なんだってことを
覚えただろ。改めて謝りに来たのは褒めてやろう。」サブは答えた。「好き勝手なこと
をやるには結構不自由を我慢しなきゃならないんだよ。」
遠まわしな言い方に、その時カツオと中島は意味がよくわからなかった。
ただ、自分達が何をやっても許してもらえる子供ではなくなっているのだと言うことが
おぼろげに伝わってきた。
「前に言った通りバイクは乗せてあげるが、君達だけで空き地でバイクを乗り回して警察を
呼ばれたら僕も面倒だから、乗るのは店が休みの木曜日だけだぞ。」
その他服装など細かい注意をされたものの、サブの言葉に途端に二人の顔が明るくなった。
翌週の木曜日の夕方は、空き地までサブがバイクを持ってきてくれる約束になった。

692: 774RR 2006/02/27(月) 22:42:30 ID:D0UrcrPH
「そうそうカツオ君、お姉さんは君が最近休みの日も朝から出かけていったり、いきなり服を
泥だらけにして帰ってくるのを大層不安そうにしていたよ。あまり家族に心配させるような
ことをするなよ。」少し笑いながらサブが言った。
なんで姉は配達の人にまでそんな家庭のことをイチイチ相談したりするんだろうとカツオは
恥ずかしくて目を伏せた。
話し好きで慌てものの癖に小言を言うカツオには疎ましいだけの姉がサブとなぜそんなことま
で話しているのかを考えないカツオはまだまだ子供だった。

サブは子供だった中島とカツオをあたかも大人の一員として扱い育ててくれていた。カツオと中島が最初に接した大人はサブだったのだということにカツオが気付いたのは随分と後のことだった。

703: 774RR 2006/02/27(月) 23:30:37 ID:D0UrcrPH
木曜日の夕方、カツオと中島は空き地で落ちつかなげに待っていた。果たしてサブは本当に
来てくれるのだろうか。店まで迎えに行きたい気持ちを抑え、二人は時々道路の見通しの
良いところへ出たりしながらカブが来るのを待っていた。

時間丁度になったとき、聞きなれたカブよりやや高く大きいエンジン音が聞こえた。
他のバイクだろうと思ったそのバイクは、空き地の二人の方に向かって来て目の前に
止まった。小さな車体の上にやや小太り気味の男が乗ったそのバイクに、カツオは
TVで見たボリショイサーカスの”オートバイに乗る熊”を思い出させた。
ジーンズにタンクトップのその男は、ジェットヘルのまま二人に言う。
「お待たせ。空き地で遊ぶならこっちのバイクの方が良いだろう。」
大きな顔を無理やりジェットヘルに詰め込んだようなサブが言った。

「うわぁ、凄いやサブさん、本物のオートバイみたいだぁ!」中島が興奮した声で叫ぶ。
サブが乗ってきたバイクは小さいながらも剥き出しのエンジンの周りを排気管が取り囲んだ
デザインで、ビジネス目的のカブとは明らかに異なった”スポーツ目的のオートバイだった”。
赤が基調のデザインはいかにも趣味性をアピールし、小さいくせに甲高い排気音が存在は必死に
存在を主張してはしゃぐ小型犬のようだ。
中島の賞賛の声を聞いて嬉しそうな顔をしてサブは説明をはじめる。
「同じ50ccだけどこっちの方が面白いぞ。今までのバイクは重い荷物を運ぶためのバイクだった
けど、こっちのバイクは空き地で遊ぶためのバイクだ。KSR-?Tって言うんだ。」

709: 774RR 2006/02/28(火) 01:14:23 ID:9uMDNViS
中島が今すぐにも乗り足そうな顔をしてソワソワとしている。一方のカツオは少々不満だった。
カブに比べて小さい車体はどこか玩具っぽかった。公園で子供が遊ぶ”ポケバイ”のようで、
走破性が高いとはとても思えなかった。
そんなカツオの心中の不満には気付かぬように、サブは肩、 ひじ、スネ、ひざのパッドを中島に渡す。
「無いよりマシってだけかもしれないけど、乗る時は これを付けておけよ。手袋はとりあえず軍手を持ってきたから使ってくれ。メットは、最初は ジェッペルでいいだろ。」と言って付け方を中島に説明する。中島はウキウキとして装着している。
カツオが(少女漫画なら目の中が星だらけだろうな)と思うほどに興奮したままの中島がバイクに 跨るとサブは操作方法を簡単に説明した。
「操作方法はそんな感じで、エンジンが止まらないように回転数を上げてゆっくりとクラッチを つなぐんだ。止まりそうになったらクラッチを切らなくてもいいからブレーキで止まれ。
転びそうになったらバイクを放り出してもいいから逃げろよ。」かなり大雑把な説明のあと、
とりあえずギアは一速のままで一周してみるようにとサブは中島を送りだした。

何回もエンストをこきながら凹凸の多い空き地の不整地を一周してきた中島は興奮気味にサブに 報告した。
「凄いやサブさん。加速も、クッションも全然違う!」
それを聞いたサブは嬉しそうにシフトアップの方法を教えたあと、もう一周してくるよう中島に言った。

中島の報告を聞いたカツオの「あれっ」という顔を横目で見たサブがニヤっと笑った。
心の中を見透かされたような気がしたカツオは無表情を取り繕って下を向く。

710: 774RR 2006/02/28(火) 01:15:34 ID:9uMDNViS
中島が二周目を戻ってきた。今度はエンストの回数も3回だけだ。ギアもなんとか2速まで使い、
一度は無理やり3速まで入れたようだ。(その後のコブを登ろうとしてエンストをしたが。)
嬉しそうにサブに報告をした中島はもう一周しそうな勢いだったが、
サブがニヤニヤと笑いながら カツオに言った。「カツオ君もそろそろ乗ってみるかい?」

「中島君にした説明を聞いていたろう?2速まで入れていいからとりあえず一周してケガせずに無事に帰っておいで。」梅雨に跨ったカツオの保護具を軽く確認した後でサブは気楽に言った。
アクセルを軽くひねってエンジンの回転数を上げてクラッチレバーをゆっくりと離していく。
クラッチがつながり始めたところでエンジンが止まった。回転を充分に上げられずエンストしてしまった。サブと中島が横で笑っている。
気付かないフリをしてエンジンを再スタートさせ、改めて発進をやり直す。二回目は失敗せず無事に繋がった。
一度走り出すと、今までのカブとは比べ物にならない力強さでKSRは走った。
空き地のコブやくぼみを避けながら走っているうちに次第にコツをつかみ始め、一周目で3回エンストした後、二周目はなんとか1速と2速を使い分けて走りまわれるようになってきた。

711: 774RR 2006/02/28(火) 01:17:06 ID:9uMDNViS
KSRのパワーを試したくなったカツオが少し深いコブに突っ込んだ時だった。
ギアを一速に落としたカツオが登り坂でアクセルを思い切りひねった途端、カブとは比べ物にならないパワーを搾り出したKSRのエンジンは、車体を斜面の角度を越えて真上に押し出した。
慌てたカツオは必死にKSRを放り出すと、まだ倒れる前の車体の下敷きにならないように地面を這って逃げた。

遠くからサブと中島が慌てて走ってくる。カツオの隣では倒れたままのKSRのエンジンが必死に回っている。振り落とされて仰向けになったカツオの目に空が映った。カツオの視界一杯に雲一つない青空が広がる。
「磯野大丈夫か!」慌てた中島の声が聞こえ、心配そうに覗き込むサブと中島の顔が並んで空の手前に入り込む。
カツオは寝たままで体を確認してみるが痛いところは無いようだ。
二人の心配そうな顔を見ながら、カツオは何故か笑い出した。心配そうな顔のサブと中島を見ながらも、カツオは笑いが止まらない。空の青と二人の顔を見ながら、寝転んだままのカツオは楽しくて楽しくてしょうがなかった。オートバイとはなんて楽しいんだろう。

空き地でオートバイを乗り回してもまだ子供の遊びと周囲は笑って見ていてくれた。
まだまだそんな余裕のある時代だった。

906: カツオ物語~サブとの出会い~とか、何かそんな感じ 2006/03/08(水) 23:53:32 ID:ig1YRUmj
カツオと中島には最後までサブの真意が判らなかった。
ガソリン代くらいは渡そうとカツオと中島が昼飯代を浮かせが1000円札を渡そうとしたときには「そんなことしなくていいから、学校帰りに時々店の自動販売機でジュースでも買ってくれ」と言ってサブ笑った。
最初こそオートバイの扱い方を教えてくれたものの、それ以降は放置された土管の上で寝ていたり、ビールを飲みながらスポーツ新聞を読んで過ごすだけだった。
一時程時間を潰すと「そろそろ帰るか」と言い店に戻っていく。その後から名残惜しげにカツオと中島がKSRを押して歩く。店に着くとサブは二人からバイクを受け取り、翌週か翌々週の約束をした後で店の裏に去っていく。

そんな繰り返しが3度程過ぎた頃だった。空き地の周囲はカツオが一人でバイクを持ち出していた頃から作り上げた細い外周コースが既に出来あがっていた。
まずは肩慣らしでカツオが二周、続けて中島が二周周り、再びカツオが跨ろうとしたときだった。お互いの走りをアレコレと批評しあっていた二人にサブが不思議そうに問い掛けた。
「なぁ、バイクってそんなに楽しいか?」
「勿論ですよ。」
カツオが即座に答えた。横の中島も今更何を聞くんだろうという顔をしている。
「ふ~ん・・・」
サブは二人の答えを聞いてもまだ不思議そうな顔をしたままだったが、しばし考えたのちに再び質問した。
「同じところをグルグル回ってるのは飽きないか?」と聞いてきた。
「でも免許も持っていないのに道路を走る訳にもいかないですから。」今度は中島が答えた。
すると今度はちょっと悪戯っぽい顔になったサブが言い出した。
「折角のKSRなんだから平らなところばかり走っていたらつまらないだろう?」
KSRのどこが”折角”なのかわからない二人には宝の持ち腐れのような話ではある。